法学部出身者に、「法とは何か?」という質問をすると、多くの人が困惑してしまうでしょう。

そもそも、「●●とは何か?」式の問いは答えがなく、実益が乏しいことが多いのですが、この問いも同様の問題をはらんでいます。

とはいえ、子供などから、「法って何ですか?」という無邪気な質問を受ける機会もあろうかと思いますので、さしあたり、どのように答えるかを考えておくのは有益と思われます。

そこで参考になるのが、来栖三郎先生が「法の解釈における制定法の意義」という論文(「法とフィクション」に所収)で示された答えです。それは、「法とは判決のことです」というものです。

来栖先生の見解では、「法」と「法源」とは区別されるものであり、日常的に我々が「法律」と呼んでいる制定法は「法源」であり、「法」が個別の事案で具体的に発現したもの、すなわち「判決」こそが「法」ということになります。

この定義は、主体(裁判所)と行為形式(判決)に着目したものということができますが、これによると、裁判所が行うのではない「和解」や「行政行為」はもちろん、裁判所が行うけれども「判決」ではない「決定」も「法」ではないこととなり、やや狭すぎるという批判もあるでしょう。ですが、大陸法系の国だけでなく英米法系(制定法ではなく判例が法源とされる)の国にも広く妥当し、何よりも明快な定義として、すぐれたものであると思います。