④ それは、個人を外部の世界から隔てることによって、危険から守る「壁」となる。

⑤ それは、個人を外部の世界から隔てることによって、「自由」を奪う。

 

※ 以下、「進撃の巨人」のネタバレが含まれていますので、ご注意下さい。

「カール・フリッツは 「始祖の巨人」の力で 彼の平和を実現するべく 巨大な盾と矛を 生み出しました」

「それが始祖ユミルの3人の 娘の名を借りた三重の壁 ウォール・マリア ウォール・ローゼ ウォール・シーナ」

「盾であり矛であるこの壁は およそ幾千万もの「超大型巨人」で造られています」

(諌山創「進撃の巨人」第25巻・第100話「宣戦布告」より)

「進撃の巨人」第1巻では、「超大型巨人」によって「ウォール・マリア」が破壊され、主人公(エレン・イェーガー)の母を含む多くの住民たちが侵入してきた巨人たちに食べられ、絶命します。ところが、巨人たちの侵入から住民を守ってきた「壁」は、実は、「超大型巨人」で造られていました。「壁」の中の平和は、「家畜の安寧」、「虚偽の繁栄」に過ぎなかったのです。

 

さて、ここで、「巨人」及び「壁」を、「中間団体」という言葉に置き換えて考えてみたいと思います。

「中間団体」について、憲法学者の樋口陽一先生は、次のように述べます。

「個人の解放と国家への権力集中というあり方を徹底的に追求したのは、フランス革命であり、個人と国家のあいだに介在する一切の「中間団体」を、徹底的に敵視した。1789年権利宣言のカタログに結社の自由が出てこないのは偶然ではなく、その時点で存在していた結社——すなわち身分制的結合——を解体して、自由な諸個人から成る社会の前提をつくりあげることこそが、革命の中心課題とされたからである。」(「憲法」p29~30)

「チューカンダンタイ」という聞きなれない言葉に違和感を覚えるのは正常な反応で、こういう抽象的な言葉が出てきたときは、具体的で身近な事例に即して考えてみるのが賢明です。

「中間団体」はフランス語の「corps intermédiaire」の訳で、国家と個人の間に介在する商工会議所、宗教団体、株式会社、弁護士会や大学などを指していますが、これらは、フランス革命時の立法によって廃止されました。なんとパリ大学ですら解体されています(樋口陽一「比較憲法(改訂版)」p69~、p474~)。ギリシャ・ローマの発想に似ていますが、「中間団体」は、(大学どころか、弁護士会ですら)個人の自由と独立性を阻害するものと考えられたからです。

他方で、「中間団体」(壁)の解体によって、今度は、個人が国家(超大型巨人)の脅威に直面するという新たな危険も生じるのですが、それは、後の近代立憲主義の確立期に、自由で独立な諸個人の結合を保障するものとしての結社の自由が日程にのぼるまでの、過渡的な状況として位置づけられます。