ここで、「企業審査入門」(久保田正純・日経文庫)を題材として、「金融機関の審査の審査」、すなわち「メタ審査」を試みたいと思います。以下、この本の中から問題となる記述をいくつか引用してみます。

①「企業の最大の目標は利潤の獲得にあります。」(p15)

②「調査対象企業がゴーイングコンサーンとして存続できるか、その存立基盤(技術力・商品力・経営力など競争力の根源)を考えます。」(p27)

③「適正な投資により十分なキャッシュフローとしての現金利益を生み出していれば、企業は長期にわたり存続できます。」(p29~30)

④「企業収益を生む設備投資が、継続的に実行されなければ企業の存続はありえません。」(p44)

⑤「まず財務面では、企業が安定して存続できるかみなければなりません。そのためにはB/Sと資金運用表のチェックが重要です。」(p69)」

⑥「現金利益とは、企業の投資(主として固定資産投資)が生むキャッシュとしての利益で、企業経営上最も大切なものです。」(p70)」

①は当たり前のことのようですが、疑問なのは、「利潤」が何を指すかという点と、それが誰に帰属するのかという点です。③や⑥などと併せて読むと、どうやら著者は、「利潤」を「キャッシュフロー」とほぼ同義と考えているようです。また、「利潤」は、「株主(個人)の利益」に還元されるものとしては考えておらず、「企業」という抽象的な主体に帰属するものと考えているようです。

②ないし⑥について言えば、結局のところ、同じことを言っていると思われます。すなわち、「(具体的な個人ではない、抽象的な組織・集団としての)企業の究極の目標は、『組織・集団の存続』にある」という命題であり、個人と組織・法人(9)でご紹介した、「金融ビッグバンの政治経済学」の著者による「政治アクター」の「究極の目標」の理解とほぼ同じ発想です。

付言しますと、②の「ゴーイング・コンサーン」の意味についても若干の注意が必要です。というのは、Going concernとは、Wikipediaによれば、

“a business that is assumed will meet its financial obligations when they fall due. It functions without the threat of liquidation for the foreseeable future, which is usually regarded as at least the next 12 months or the specified accounting period (the longer of the both). ”

とあるとおり、「少なくとも向こう12か月間倒産の恐れがない企業」を指すのに対し、著者(及び金融機関の審査担当者)は、「少なくとも貸付期間中、倒産する恐れがない企業」という風に考えていると思われます。更に言えば、「資産」→「キャッシュフロー」→「資産」というサイクルを永遠に繰り返す主体を想定しているフシすら感じさせます。

このように、金融機関の審査担当者が、(例えば、事業の公益性などではなく、)「存続」ないし「永続」を企業の究極の目標と考え、それが実現出来るかという点を与信判断の最大のポイントとする理由は何かが問題となりますが、私見では、結局のところ、「金融機関自身が存続・永続を究極の目標としており、それを危うくするようなリスクを取りたくないと考えているから」ということになるものと思われます。