こうした審査手法は、「不動産担保主義」と「スタート・アップ企業に対する審査ノウハウの欠如」という大きな問題を惹き起こしました。前者(不動産担保主義)は、リスクテイキングという金融の役割の放棄に等しいとも言え、これまでに数々の悲劇を生み出しました。例えば、「増加運転資金」(売上げ増加に伴う運転資金)が必要となる企業で、経営者等が不動産を所有していないために、「担保がないから」という理由で融資を断られ、売上げが増加したにもかかわらず倒産したケース(いわゆる「黒字倒産」)はたくさんあります。

後者(スタート・アップ企業に対する審査ノウハウの欠如)について言えば、「存続・永続」(専門用語で「財政持久力」などと言うこともあります。)を最重視する立場からすれば、過去に「存続」した実績のない企業を評価しないのは当然の帰結であり、「スタート・アップ企業には貸せない」というのが金融機関の本音ではないかと言う見方もあるでしょう。ちなみに、ベンチャー・キャピタル(VC)の審査手法は、一般的な金融機関の審査手法とは全く違います。私の知る限り、VCは、「企業の存続可能性」という観点を余り重視しない代わり、「経営者の才覚」を最も重視する審査手法をとっています。成功するベンチャー企業は、一般人が考えもしないような切り口の事業を展開することが多いのですが、それが出来るのは、経営者が普通の・常識的な人物ではなく、ユニークな発想と実行力を持っているからであると考えられます。VCは、この点に着目しているわけです。

これに対し、金融機関の審査担当者からは、「自分たちもヒト(経営者)を重視している」という反論が出てくるものと思われます。確かに、久保田氏も、

経営者(ヒト)に会って、その言動や実績から、その会社の工場(モノ)の状況を推測し、あるいは財政状態(カネ)を思い浮かべます。」(前掲・p13)

と述べています(ここで、「ヒト」という言葉を、経営法曹が「調達材としての労働者(労働力)」という意味で用いたのに対し、審査担当者は「経営者」という意味で用いているのは面白いところです。)。ところが、「経営者」を重視すると言っておきながら、「存続」(財政持久力)」こそが一番重要であると述べるのは、明らかに矛盾しています。なぜなら、「経営者」は、極端な話、次の瞬間にはこの世に存在しないかもしれないからです。実際、経営者の死・病気などによって倒産に至った企業は数知れません。

こうしてみると、やはり、企業の「存続・永続」を与信判断の最重要ポイントと位置づけたところに、根本的な問題があったのではないかと思われます。