A株式会社は、「不動産担保主義」の逆手を取る戦略に出ます。つまり、「担保がないなら貸せません」というスタンスの金融機関に対し、「担保を出すから貸して欲しい」と申込みを行ったのです。その際、A株式会社は、マリンリゾートとして開発途上の海辺の土地(実際は荒れ地)を担保提供する旨を申し出ました。ところが、建設会社がこうした土地を無担保の状態で所有しているのは不自然であり、実は、工事完成まで登記名義を一時的・形式的にA株式会社のものとしておくよう、注文者との間で通謀していた疑いが濃厚でした。このように、素性の怪しい土地を担保物件候補として提示するところからして、既に bona fides の精神からはかけ離れています。

こうしてA株式会社は、その年にはB信用金庫以外の複数の金融機関から合わせて数億円の融資を受け、何とか年を越すことが出来ました。もっとも、その後も配送センター問題が解決する気配は一向になかったため、B信用金庫は、回収に向けた路線に転換することを検討します。そして、B信用金庫が下した結論は、「3月末までに債権を回収し、破産申立てを行う」というものでした。

3月下旬、A株式会社は破産宣告を受けましたが、遅くとも2月には弁護士に自己破産の相談をしていたようです。ちなみに、B信用金庫は、しばらくA株式会社への新規融資を控えていた上、売掛金や他の金融機関からの融資金の入金口座がB信用金庫の預金口座とされていたこともあって、A株式会社への貸付金については預金との相殺などにより全額回収出来たとのことです。その後、私が他の金融機関にヒヤリングしたところ、「B信用金庫にしてやられた」と語る担当者もいました。

この事案を見ると、借り手と貸し手(たち)との間において、また、複数の貸し手たちの間において、「透明でフェア」なやり取りがなされていたとは到底思えません。むしろ、見えないéchangeを行ったり、裏に回って相手を出し抜いたり、特殊な事情について敢えて黙したりすることなどによって、相手から利益をぶんどり、あるいは他者に損失を押しつけていたというのが実態でした。あくまで私見ではありますが、企業金融の現場においてbona fides が成立しているとは言いがたいというのが実情と思われます。