(以下、「フルメタル・ジャケット」のネタバレが含まれていますので、ご注意下さい。なお、撮影に関するエピソード等の出典は、特に断りのない限り、「スタンリー・キューブリック リミテッド・エディション・コレクション(初回限定生産)」(Blu-ray版)です。)

US Marines singing “Mickey Mouse Club March” (ミッキー・マウス・クラブ・マーチを歌うアメリカ海兵隊員たち)…・・・これは、この映画のラストシーンであると同時に、この映画の主題を端的に表すものでもあります。監督が述べるように、「もっともブルータルで困難な訓練……若いアメリカ人の大人になるための通過儀礼」を経験した海兵隊員たちは、「数年前までTVで「ミッキー・マウス・クラブ」を見ていた」子供たちだったのであり(「ムービーマスターズ スタンリー・キューブリック」p62~)、「ミッキー・マウス・クラブ・マーチ」は、喪われたイノセンスへのオマージュとなっているかのようです。

もっとも、ウォルト・ディズニーが「アメリカの理想を守るための映画同盟」(映画業界における愛国・反共組織)の創設者の一人であったことや、監督がハリウッドの映画人たちを忌み嫌っていたことを知る人たちからすれば、こうした見方は余りにナイーブ過ぎるという批判も成り立ちうるところでしょう。つまり、ミッキー・マウスが体現する純真さ(Innocence) は、Marine (の卵)の愛国精神を涵養することに奉仕しているのであり、アメリカという国家が最も重視する実力(その象徴が完全被甲弾:Full Metal Jacket)とは表裏一体の関係にある、あるいは、実力と並んで「神の国」アメリカを支える柱の一つであるという見方をする向きもあるでしょう(ひょっとすると、これが監督の見解なのかもしれません。)。

さて、この映画は3部構成となっており、それぞれに題名を付けるとすれば、第1部は「海兵隊ブート・キャンプでの“通過儀礼”」、第2部は「戦場(ベトナム)デビュー」、第3部は「狙撃兵との戦い」ということが出来るでしょう。

監督も認めるとおり、この映画はいわゆる「ベトナムもの」の反戦映画ではありません。前述のとおり、この映画は、(全ての)アメリカの若者にとっての「通過儀礼」(Initiation)が主題であり、それは第1部(最初の36分間)で明らかとなります。そして、「個人と組織・法人」という観点からは、この第1部が最も重要です。