日本社会においてbona fides が機能しているかどうかを検証するのは難しいと思われますが、これについて、私がある金融機関の職員であった時代(平成12年ころ)に経験したある事案を素材にして考えてみたいと思います。なお、このお話は基本的にノンフィクションであり、登場する人物・団体等は仮名ですが、全て実在する(実在した)ものです。
A株式会社は、兵庫県某市に本店を置く、大手ゼネコンの元工事課長が独立して設立した中堅クラスの建設会社です。リゾートや物流センターなどの、いわば「更地からの開発」を得意としており、土地の取得については金融機関のバックアップを受けていました。もっとも、これといったメイン銀行はなく、プロジェクト毎に借り入れる金融機関を変えているような状態でした。なお、会社の経理は社長の妻が担当していました。
そんな中、社長の妻が急逝します。困った社長は取引のあったB信用金庫の幹部に掛け合い、後任の経理担当者となる人員の受入れを提案します。B信用金庫は、同族経営であり、優秀な職員でも親族でなければ幹部になることが出来ないため早々に退職してしまうという企業風土を持つ、典型的な「イエ型」のカイシャです。社長の提案は恒常的に職員の天下り先を求めていたB信用金庫にとっては「渡りに船」のうまい話であり、まだ若いC職員を敢えて退職させ、A株式会社に送り込みます(ここで、A株式会社とB信用金庫の間でéchange が行われている点が注目されます。)。
ところが、C職員が着任してみると、A株式会社の資金繰りは火の車の状態でした。とりわけ、大手運送会社に販売する目的で取得した集配センター用地に係る約20億円の借入の金利が年間7000万円以上にのぼり、大きな負担となっていました。用地の一部は借地なのですが、所有者との間でトラブルが発生し、電力供給のめどが立たない状態が続いていたのです。集配センターが売却出来なければ借入金を返済することは出来ません。こうした状況を踏まえ、B信用金庫とその意を受けたC職員は、当面、B信用金庫以外の金融機関から可能な限り多額の融資金を得て資金を繰り回す作戦をとりました。
こうして、A株式会社は、B信用金庫以外の複数の金融機関に対し、次々に新規の融資を申し込みました。