結局のところ、「怒り」にどのように対処するかが問題なのですが、弁護士が相談を受ける被害者の方にとっては、差し当たり、パワハラであれば異動又は退職、モラハラであれば別居ないし離婚という選択肢しかないと思われます。「怒り」の攻撃を受けないようにするためには、隔離・回避しかないからです。
もっとも、これが根本的な解決にならないことは当然で、「怒り」の発生源である加害者をどうにかしないといけないということになります。例えば、経営コンサルタントの神田昌典氏は、怒りの原点は「経営者」であり、経営者こそがしっかりとした家族観や哲学を持たなければならないと主張します(「成功者の告白」p174)。他方、片田先生は、怒りは我慢してはならず、ゼロか百ではなく、「中間の50~70くらいで出すように工夫すべきである」と主張します(「なぜ「怒る」のをやめられないのか」p248)。また、フロイト的な発想からすれば、子どもに対し、親が過剰な「怒り」を発現することも抑制すべきであると考えられます。
ところで、ミリオンセラー「嫌われる勇気」(岸見一郎、古賀史健)によると、心理学者のアルフレッド・アドラーは、「怒り」は、「大声を出す」、「相手を屈服させる」などといった目的のために「捏造」される感情であると言います(p32)。フロイトが因果論的思考であるのに対し、アドラーは目的論的思考ということが出来ますが、それにもかかわらず、「怒り」の根底に、「他者を支配することなどによって全能感を維持したい(無力感を払拭したい)という感情」、すなわち「自己愛」が潜んでいるという点については、両者間でほぼ一致しているように思われます。
以上をまとめるとすれば、パワハラやモラハラを根絶するためには、比較的優位な立場にある人(経営者・上司、夫など)において、自ら「怒り」の根源を意識しコントロールすることが重要だということになりますが、そのためには、これまで述べてきたような「怒り」についての教育が必要なのではないかと思います。